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シナリオの行間をつくる【2004/02】

 今回はまじめに演出というものを考えてみます。演出とは、ひとことでいえばシナリオの行間をつくっていく作業。ですが、アニメーションは別にして、作品をすべて演出でコントロールすることはできません。そのへんが悩み所であり、楽しみ所であり、手の抜き所でもあったりします。

コンテ至上主義か、その場の空気を大事にするか

 監督は、大きく見て二つの正反対のベクトルの中のどこかにスタンスを置いていると考えられる。すべて決めてきて、その決めたことに近づけようとするベクトル。キャストやスタッフのやりたいようにやらせて、それと自分のイメージを現場で重ねていくベクトル。ヒッチコックは自らが公言しているように絵コンテができた時点で作品が完成しているというすべて決めてくる典型的な例であり、つまりはコンテ至上主義といえよう。逆に、多くのドキュメンタリー映画の監督は、その場の空気を大事にする演出と必然的になっていくだろう。
 ドラマの監督の場合、そのプランや予算によってもだが、このベクトル線上のどこかに自分の演出の足場があるものと考えられる。例えば原田正人監督は、ドラマの中にアドリブ的というかドキュメンタリー的表現方法をよく持ち込む監督だが、「バウンスkoGALS」と「突撃せよ!あさま山荘事件」ではそのアドリブの量にまず違いがある。基本的にはどちらかといえばその場の空気を大事にするタイプの監督でも、その作品によって足場を変えているわけだ。

演出のコントロール範囲

 大抵の映像学校では、映像の作り方を実習などで学んでいく際に、講師がチェックをしていくため、企画から脚本、絵コンテという風に進んでいく。なので、若い作り手であるにも関わらず、最初の作品が持っている荒削りな生々しいドキュメンタリー性がなくなってしまうことが多い。意識してか無意識かは別にして、驚いた顔が必ずクローズアップになるような所謂絵コンテの勉強になるカット割になってしまいがちになるのだ。特にフィルムでやっていたりすると顕著である。
 ここで、演出=カット割みたいにインプットされると、そこから抜け出すのに苦戦する。演出とは、カット割やカメラの動きもあるが、俳優の動き方やセリフの言い方、ライティング、小道具、衣装、特殊効果、音などありとあらゆるものに渡るはずで、そこをすべて網羅して作品をよりよいものへと導く苦しいが、楽しい作業なのだ。

演出の手の抜き所を考える

 しかしながら、神様ではないので演出するにも限界がある。予算がない、時間がないという先天的なものもそうだが、衣装やメイクや小道具まですべて撮影ごとに監督がチェックするわけにはいかない。撮影中にちょっとした影とか絞りとかを見ると同時に芝居も見ることはできない。ビデオならプレビューして何度もチェックすることもできるが、そんなことやっていては多くのショットをこなせない。どこかに手の抜き所をつくらないといかんのである。ただ、手を抜いて誰もがノーチェックだったらクォリティにも関わってくるので問題である。つまりは、スタッフに監督の別の眼をもってもらうことが大事である。俳優に求めている芝居を理解してもらっておくことも大事である。全部指示を出さなくても、こういうことをやりたいというイメージを喚起するだけで、スタッフやキャストが動けるのがいい。それには、スタッフが絶えず考えるような指示を出すのである。
  「映像はフラットで明るい感じ」「肌のツヤが出るような」「金赤っぽい赤」「衣装は暖色系の色でさわやかな感じ」「もうバリバリメイクしてかわいくして」「切れのいいような短いカットで」「なんかここに音欲しいな」。こんなのが、普段私がスタッフに出している指示だが、具体的なようで想像力がないと理解不能な抽象的な指示でもあったりする。だが、ただ「映像は明るくして」「ライトで肌のツヤ出して」「赤っぽくして」「衣装は◯◯色がいいな」「メイク濃くして」「短いカットで編集して」「◯◯の音欲しいな」というより、スタッフのクリエィテビティを刺激しているのは間違いない。スタッフやキャストのモチベーションに火をつければ、あとはYESかNOを判断するだけでプロの現場はこなせるのである。
 パーソナルインデペンデントの場合はそうはいかない。スタッフが慣れていなければ「フラットな感じでいきたいから反射でライトいこうか」ぐらいの具象性が必要になるが、「ライト反射で」というより何のために反射するのかが理解できるので、それはそれでスタッフのモチベーションは確保できるだろう。

直感が意外に大事

 いずれにせよ、直感的に何か合わないことがあったらテイクは重ねるべきだ。もちろん何がダメなのかは瞬時に考えなければならない。「何か違う」では、スタッフもキャストも動けない。「何か違うな、何だ、芝居とカメラの息かな」なんて独り言で伸ばすこともあるが、考えつかなければ、「ちょっと試しに◯◯やってみようか」と気になっているのと別の部分のアレンジをしてテイクを重ねる、で、その間に考えればいいのである。

  

 
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