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シナリオ入門書評 起承転結と三幕構成発想に困った時
     

起承転結と三幕構成【2004/05】

 様々なシナリオ入門書で語られるドラマの構成法。それは、ほぼ起承転結と3幕構成を主軸にしているといっても過言ではないでしょう。では、この二つの構成法は何が違うのか、ざっくりとここで語ってみます。

ドラマの時間と観客の感情

 上記の図は映像作品の時間に対する「観客の感情のうねりのようなもの」をグラフ化したものである。(これに似たグラフはシナリオ入門書でよく示されるが、何のグラフなのかを明快に語っているものは少なく「テンションの高さ」(「エンタテイメントの書き方」)のような表現になっていたりするが、ここでは「観客の感情のうねりのようなもの」と表現することにした。)
 この表でいえば観客のエモーション(感情)は基本的に右に傾斜する山なりの形を示すことがよいとされていて、ドラマが進行していくに連れてエモーショナルな興味が常に沸いてくるようになっているわけである。ただ、その興味を残したままでドラマを終わらしてしまうと、尻切れトンボのようになってしまうので、最後にはきちんと終息するようになっている。また、発端部では、これから見ようとする観客を惹き付けるために感情のうねりが大きめになるようドラマ構成されていることが多い。もちろんこのグラフは一種の模式であるので、必ずしもこの形というわけではなく、中間部分はもっとヒダが多いような形になっていたり色々あるが、今回起承転結と3幕構成を比較するのにもっともわかりやすい形として示した。

 

日本のテレビドラマの時間軸にあっている起承転結、だからわかりやすい

 起承転結はご覧のように時間軸を切ることになる。シナリオ初心者にはわかりやすい構成法で、簡単にいってしまえばこの点線の部分にコマーシャルが入っている1時間ドラマを想像すればいいわけである。ただ実際は「承」部が長いのでこのようにはならないが、説明としてはそういうことでいいような気がしている。
 詳細は前章のシナリオ入門書で起承転結を扱っているものに譲るが、要は「起承転結を通じて人物の感情が変化することによってテーマを伝える」ということが大きなポイントである。ここでの「感情変化の地点は当然最も感情のうねりの高い「転」部にするのが最も効果的」になるのは言うまでもないだろう。それを観客が共感して「ああ、いい作品だった」ということになるわけだ。となれば、「「起」で逆テーマ(アンチテーゼ)を信じる主人公が「承」部の事件を通じて「転」部で感情変化し、「結」部でテーマに行き着くという流れ」になってしまうわけだ。(3幕構成もある意味流れは同じ、もうこれは決まりゴトと考えた方がいい。)これに「障壁」やら「葛藤」やらを主に「承」部に注ぎ込み、わかりやすい「起」部(「シナリオの基礎技術」では「天(時間)・地(場所)・人(どういう人か)」と表現し、これをちゃんと示してやることが「起」の役割としている)をつくってやれば、シナリオとしてほぼ成立することになるのだ。
 例えば、「家族の絆は大切」というテーマなら、バラバラの家族の風景からはじまって、第三者なのか犬なのかわからないが出会うとかまでが「起」になる。「承」でその第三者が家族に波紋を巻き起こし、エピソードを積み重ねる。一時的にはもっとバラバラになったりもして、ハラハラさせる(この時点で観客の感情的には「バラバラじゃなきゃいいのに」と思わせておかなければいけないのだが)。で、最も大きな事件、その第三者が死ぬとか、家族の誰かかも知れないがそういうことが起こるのが「転」で、ここで主人公が「家族の絆は大切」という思想に行き着くわけだ。そして「結」でそのテーマを象徴するようなシーンでしめくくる、ということである。
 当然テーマからインスピレーションを得ている作品ばかりとは限らないので、テーマが物語に後づけする形で発生してくる可能性は十分にありえるが、一部の実験映画や失敗作を除いては、この構成法に当てはまらない映画やドラマは皆無といっていいだろう。そういったことも含めてもシンプルでわかりやすい構成法といえるわけだ。最近のドラマでは「起」のパートを明確に示さずに「承」との切り替えが曖昧になっていることから、構成法として古いイメージをもたれがちだったりはするかも知れないが、むしろ基礎の構成法として明確に理解しておくことが望ましいといえるだろう。

 

ハリウッドスタイルの3幕構成、論理的だが複雑

 もともとはシェークスピアとかだからヨーロッパスタイルといえるが、映像作品における3幕構成を最も具現化しているのはハリウッドだから仕方ない。起承転結的に見立てると3幕構成は上記のようになる。(時間的には実際はこの図よりも2幕の時間がずっと広い幅をとることになる。上映時間の半分弱くらいが2幕に充てられるとみていい。)
 「ドラマが、生まれて、生きて、死ぬ」(「ハリウッド・リライティング・バイブル」の発行者岡田氏の弁)という意味においてはわかりやすいのだが、3幕構成の場合、起承転結のようにそれぞれの幕に役割があるという考え方ではなくて、そこに下記のような小カテゴリー的な役割ワードが存在する。

 この役割ワードを拾っていくと基本的な構造は起承転結と変わることはない。ま、ある意味当然といえば当然なんだろうが。セットアップが「起」にあたり、解決の意味を表すレゾリエーションが「結」にほぼあたるだろう。
 ただ3幕構成の面白い所は二つのターニングポイントの存在である。それぞれ1幕、2幕の終りで登場し、次の幕へ興味が持続するように、少しだけ感情のうねりをあげる事件をおこす(または事実が発覚する)という風に使うわけだ。これにあたるものは起承転結のシナリオ入門では単語としてはなくて、「「承」には細かい波を作った方がよい」というような旨の表現になっていたりする。そこを明確に2つのターニングポイントに集約している点が3幕構成の論理性を代弁しているといえるだろう。ただ、それだけならいいが、ミッドポイントなんてものも存在する。これは物語がある方向から別の方向に変化するポイントで、例えば警察に冤罪をきせられている主人公が、逃げることから真犯人を探すという風に変化する箇所だ。作品の真ん中へんの時間にあるのがいいとされている。
 これらをすべて満足させるドラマを構成するのは、そんなに容易いことではないし、シナリオを書くという初期衝動(第1稿)でここまでを求めるのはあまりに敷居が高すぎると思ったりするのだ。またそのために発想を殺してしまうこともあるかも知れない。ただ、シナリオを直していく、第2稿、3稿といった段階で、それらの直しの方向づけをするには非常に有効な考え方であるのには間違いないだろう。
 起承転結も3幕構成も、それらのいい点をうまく利用しつつ、自分のドラマに貢献させればいいわけだ。もし片方のシナリオ入門書だけで学んできたという人がいたら、他の構成法の本も読んでみると新しい発見をするだろう。ま、できれば、このサイトのバナ−からインターネットで本を買ってくれたら、私としてはもっと嬉しいのだが。

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